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大阪地方裁判所 昭和36年(レ)215号 判決

控訴人 服部明 外二名

控訴人服部明引受参加人 服部朋治郎

被控訴人 大森一雄

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め(引受承継前)、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人らの負担とする。」との判決を求め、請求の趣旨を変更して、「一、控訴人田川安雄は被控訴人に対し、大阪府泉北郡高石町新四一番地宅地三六坪地上の家屋番号同町第八七番木造亜鉛鋼板葺平家建居宅一棟建坪一一坪四合五勺(登記簿上床面積七坪六合九勺、別紙図面〈省略〉記載(甲)の家屋)を収去し、右土地を明け渡せ。二、控訴人田川一雄は被控訴人に対し、右家屋から退去し、右土地を明け渡せ。三、控訴人服部明、引受参加人は被控訴人に対し、前記土地上の木造亜鉛鋼板葺平家建居宅一棟建坪三坪五合(別紙図面記載(乙)の家屋を収去し、その敷地を明け渡せ。四、控訴費用は、控訴人らの負担とする。」との判決ならびに拡張部分に対する仮執行の宣言を求め、控訴人ら代理人および引受参加人は、右拡張部分につき、請求棄却の判決を求めた。

被控訴代理人は、請求原因として、まず、

「被控訴人は、大阪府泉北郡高石町新四一番地宅地三六坪(以下本件土地という)の所有者であるところ、控訴人安雄は、無権原で、本件土地上に家屋番号同町第八七番木造亜鉛鋼板葺平家建居宅一棟を建築所有して同土地を占有し、控訴人一雄は、右家屋に居住して右土地を占有している。控訴人明も右家屋に居住して右土地を占有していたが、退去し、同控訴人にかわつて引受参加人が右家屋に居住して右土地を占有している。

よつて、被控訴人は所有権にもとづき、控訴人安雄に対し右家屋収去本件土地明渡を、控訴人一雄、同明、引受参加人に対し、いずれも右家屋退去本件土地明渡を求める。」と述べ、

次に、請求趣旨の変更とともに請求原因の一部を変更し、「控訴人安雄は、無権原で、本件土地上に家屋番号同町第八七番木造亜鉛鋼板葺平家建居宅一棟建坪一一坪四合五勺(登記簿上床面積七坪六合九勺、別紙図面記載(甲)の家屋、以下本件家屋(甲)という)を建築所有して本件土地を占有し、控訴人一雄は右家屋に居住して本件土地を占有している。また、控訴人明は、無権原で、本件土地上に木造亜鉛鋼板葺平家建居宅一棟三坪五合(別紙図面(乙)の家屋、以下本件家屋(乙)という)を建築所有してその敷地を占有し、引受参加人は、右家屋に居住してその敷地を占有している。

よつて、控訴人安雄に対し本件家屋(甲)収去本件土地明渡、控訴人一雄に対し右家屋退去本件土地明渡、控訴人明および引受参加人に対し本件家屋(乙)収去同敷地明渡を求める。」と述べ、

抗弁に対する答弁として、

「抗弁(一)の事実中、控訴人安雄が控訴人ら主張のように訴外池辺安夫から本件土地を賃借していたことは認めるが、その余は争う。被控訴人が本件土地の所有権を取得した当時、地上建物は未登記であつたから、右賃借権をもつて被控訴人に対抗できない。抗弁(二)、(三)の各事実は否認する。」と述べた。

控訴人ら代理人は、答弁として、

「請求原因事実中、被控訴人が本件土地を所有することは認める(引受承継前の答弁)。控訴人安雄が本件家屋(甲)を建築所有して本件土地を占有していること、控訴人一雄が同家屋に居住していることは認める。ただし、控訴人一雄は、控訴人安雄の家族、つまり占有補助者として右居住をしている。控訴人明は本件家屋(乙)に居住していない。本件家屋(乙)は、本件家屋(甲)の附属建物として主物従物の関係にあり、これを所有するのは控訴人安雄である。」と述べ、

抗弁として(引受承継前)、

「(一)控訴人安雄は、昭和一二年頃から、本件土地の前所有者訴外池辺安夫から建物所有の目的で本件土地を賃借してきたが、右賃借権が対抗要件をそなえていないにしても、被控訴人は、以下のような事情により、同控訴人に対して右賃借権の登記または地上建物の保存登記の欠缺を主張することが許される第三者とはいえないから、控訴人安雄は対抗要件なくして右賃借権を被控訴人に対抗することができる。

すなわち、控訴人安雄は、昭和三四年一〇月、勤務先を停年退職したが、本件土地上の家屋だけでは家族が多く狭いため、退職金により、ほかにも土地家屋を求めようと考えていたところ、訴外池辺安夫との間に本件土地と道路をへだてた同訴外人所有の土地五六坪について売買の話があり、同訴外人は右売買と同時に本件土地を返還するように求めたが、同控訴人は、右土地五六坪は地上家屋居住者と同訴外人との間で争訟中であつたため、右の話をことわつていた。次いで、昭和三五年一月末か二月初頃、本件土地の隣地一〇〇坪余を所有する被控訴人の方で門の工事をし、本件土地の直前まで工事を進めて来ていたが、被控訴人と右訴外人間に本件土地売買の話があつたところ、控訴人安雄には同訴外人から何ら本件土地売買の話がなかつたことから、被控訴人は本件土地を買い受けることをやめ、あらためて、右訴外人と控訴人安雄との間で本件土地売買の話を進めることとなつた。しかし、間もなく、その話が具体化すると売値と買値が合わず、また、控訴人らにおいて右売値と買値の差額を負担しようとの被控訴人の申出もいさぎよしとせずとして断つたため、右売買は成立しなかつた。すると直ちに被控訴人が右訴外人から本件土地所有権を取得したのである。そして被控訴人の方では本件土地中一、二坪を使わしてもらえば訴外池辺安夫同様貸してもよいというので、控訴人安雄は被控訴人方との境界にある高さ二メートル位のウマベの木五、六本を除去し、本件土地中約二坪を被控訴人に使用させ、被控訴人方の門の工事も完了した。ところが同年末頃、控訴人安雄が地代を被控訴人方に持参したところ被控訴人はその受領を拒んだのである。ところで、控訴人安雄は、昭和三五年八月頃、控訴人一雄が本件の家屋に入居するのと入替に、他所に建坪一五坪のささやかな木造瓦葺平家建住家を求め、控訴人安雄夫婦、三男、二女、三女、控訴人明と離婚した長女とその子一人の計七人で居住しており、現在、本件の家屋には、控訴人一雄夫婦とその子計六人が居住している。そして、引受参加人は、その子控訴人明にみはなされたあわれな老人であり、控訴人らは、いずれも薄給で、本訴請求が認容されると、その生計の維持、住居の確保に致命的打撃を受けることが明白である。

これに反し、被控訴人は、昭和三〇年頃本件土地の隣地を取得して同所に居住するもので、計理士税理士として法律に明るく、裕福な生活をし、永年の隣地居住者として、控訴人安雄が本件土地を借り受けて同地上に家屋を所有し、多数の家族が居住し生活の豊かでないことを熟知している。そして、本件土地も訴外池辺安夫から貸金三〇万円の弁済に代えてこれを取得したもので、控訴人安雄から本件土地中約二坪の提供を受けて、門を拡張したことによつて、本件土地取得の目的を達しており、控訴人安雄に本件土地を賃貸していても、さほど苦にならないし、当初はその気であつたものである。ところが、その後、地上家屋に保存登記のないことを知つて、本訴に及んだものと推察される。

以上のような事情から、被控訴人は、控訴人安雄が本件土地に賃借権を有することについて、対抗要件が存在しないと主張して、取引の安全に寄与すべき登記制度による保護を受けるに値いしないものである。

(二) 仮にそうでないとしても、控訴人安雄は、昭和三五年二月頃、被控訴人との間に前記賃貸借と同一内容の賃貸借契約をした。

(三) 本件明渡請求は、前記(一)のような事情があるから、信義則に反し、権利の濫用として許されない。」と述べた。

引受参加人は、答弁として、

「請求原因事実中、引受参加人が本件家屋(乙)に居住してその敷地を占有していることは認めるが、本件土地中その余の部分を占有していることは否認する。右家屋は、控訴人明が建築所有し、引受参加人は右控訴人から右家屋を無償で借り受けている。」と述べた。

証拠〈省略〉

理由

一、請求の趣旨の減縮について。

被控訴人のなした請求の趣旨の変更は、もと一棟として主張していた本件土地上の家屋を、本件家屋(甲)、(乙)の二棟と主張するとともに、控訴人等ならびに引受参加人に対し収去ないし退去を求める家屋を右家屋(甲)または(乙)に限定し、かつ、控訴人明および引受参加人に明渡を求める土地の範囲を本件土地のうち本件家屋(乙)の敷地部分に限定するものであつて、この限りにおいては、請求の趣旨を一部減縮して訴の一部取下をしたものと解すべく、控訴人らならびに引受参加人がこれについて同意をすることがその効果発生のための要件であるところ、右同意がないので減縮・取下の効果は生じない。したがつて、以下、右減縮部分を含めて判断する。

二、争いのない事実。

被控訴人が本件土地を所有すること、控訴人安雄が本件土地上に本件家屋(甲)を建築所有して本件土地を占有し、控訴人一雄が同家屋に居住していること、本件土地上に本件家屋(乙)が存在し、引受参加人が同家屋に居住して、その敷地を占有していることは、当事者間に争いがない。そして、減縮申立部分事実中、控訴人安雄が本件家屋(乙)をも建築所有することは、当事者間に争いがない。

三、控訴人一雄の占有について。

控訴人一雄は、控訴人安雄の家族として本件家屋(甲)に居住するに過ぎず、本件土地につき独立の占有を有するものではない旨を主張するが、原審における被控訴人、当審における控訴人一雄各本人尋問の結果を綜合すると、控訴人一雄は、控訴人安雄の長男であるが、昭和三五年八月頃、控訴人安雄が当時の同居家族全員とともに本件家屋(甲)を退去し、同一町内ではあるが相当離れた所にある新たに所有することになつた住居に転居するのと入れ替わりに、本件家屋(甲)に妻子とともに居住を始め、もつぱら自己の収入で生計を維持し、現在に至つていることが認められ、これを左右する証拠はなく、右事実によれば、控訴人一雄は、みずから世帯主として本件家屋(甲)に居住し、独立してこれを占有するものというべきであるから、居住者として、その敷地について独立の占有をするものというべきである。そして、当審における控訴人一雄本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、控訴人一雄の土地占有は、右本件家屋(甲)の敷地部分のみでなく本件土地全部に及ぶものであることが認められ、これをくつがえすに足りる証拠はない。

四、本件家屋(乙)の所有者ならびに同家屋の収去請求について。

被控訴人は、本件家屋(乙)の所有者は控訴人明であると主張するが、控訴人明に対する関係でこれを検討するに、右主張事実を認めるに足る証拠はなく、かえつて、成立に争いのない甲第四号証、当審における控訴人安雄本人尋問の結果を総合すると、本件家屋(乙)の所有者は、控訴人安雄であることが窺われる。したがつて、被控訴人請求中、控訴人明に対し本件家屋(乙)収去同敷地明渡を求める部分は理由がない。

つぎに、引受参加人に対する関係で、被控訴人の本件家屋(乙)収去請求を検討するに、被控訴人は前記のとおり本件家屋(乙)の所有者を控訴人明であると主張し、引受参加人がその所有者であることを主張していないので、被控訴人の引受参加人に対する請求中、本件家屋(乙)よりの退去請求を求める限度ではともかく、これを超えて同家屋の収去を求める点は、主張じたいから、すでに理由がない。

五、減縮部分(控訴人安雄に対する本件家屋(乙)の収去請求を除く)について。

被控訴人請求中減縮部分にかかる控訴人一雄に対する本件家屋(乙)からの退去請求は、同控訴人が同家屋に居住することを認め得る証拠がなく、控訴人明および引受参加人に対する本件家屋(甲)からの退去請求ならびに本件土地中本件家屋(乙)敷地以外の部分の明渡を請求する部分は、控訴人明および引受参加人が本件家屋(甲)に居住すること、本件土地中本件家屋(乙)敷地以外の部分を占有することを認め得る証拠がないから、いずれも理由がない。

六、抗弁(一)について。

控訴人安雄に対する本件家屋(甲)、(乙)収去本件土地明渡請求、控訴人明に対する本件家屋(甲)退去本件土地明渡請求、引受参加人に対する本件家屋(乙)退去請求の関係で、抗弁(一)を判断する。

本件土地につき控訴人ら主張の本件土地の賃貸借が存在したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、乙第二号証、当審における被控訴人本人尋問の結果を総合すると、被控訴人は昭和三五年二月二六日本件土地を前主訴外池辺安夫から買い受けその所有権を取得し、同年三月二日その旨の所有権移転登記をしたが、当時、本件土地賃貸借の登記または地上建物の所有権保存登記がなされていなかつたことが認められ、これに反する証拠はない。したがつて、本件のばあい、控訴人安雄の借地権は、本件土地の取得者である被控訴人に対し民法第六〇五条または建物保護法第一条にいう対抗要件をそなえていないことが明らかである。しかしながら、右のような登記の欠缺を主張することができるのは「正当の利益」を有する者に限られ、正当の利益を有しない第三者に対しては、対抗要件をそなえない借地人であつても、借地権をもつて対抗しうると解せられるので、以下、この点を本件について検討する。

原審ならびに当審証人池辺安夫、当審証人大森紀代香の各証言、当審における控訴人田川安雄、同田川一雄、引受参加人、原審ならびに当審における被控訴人各本人尋問の結果を総合すると(ただし、原審ならびに当審証人池辺安夫の証言、当審における控訴人田川安雄、原審ならびに当審における被控訴人各本人尋問の結果中、後記措信しない部分を除く)、原告は、計理士ならびに税理士をし、昭和三〇年頃、本件土地の西隣の土地約一三〇坪を買い受け同所に建坪約四五坪の住居を新築し、比較的裕福な生活をしているものであること、昭和三四年五月頃、被控訴人は、被控訴人方の門がこわれたので修復かたがた拡張工事をしようと考え、本件土地の所有者訴外池辺安夫に本件土地の北端一、二坪を使わせてもらいたいと申し出たところ、同訴外人は本件土地を控訴人安雄に賃貸していることを事由に右申出をことわつたこと、ところが、昭和三五年初頃、控訴人安雄が退職金で土地家屋を他所に求める目論見でいたところ、右訴外人は、経済的に困つて所有土地を手放すことを急ぎ、本件土地は控訴人安雄から返還を受けられるものと安易に考え、被控訴人に本件土地を買い取つてもらいたい旨申し出たので、被控訴人はこれを承諾し、本件土地の売買契約が成立したこと、被控訴人方は、門の工事のほか前記約一三〇坪の所有土地を囲繞するブロツク塀工事をしていたが、控訴人安雄に本件土地中北端一、二坪を門の拡張のため使用させてもらいたいと申し出たことから、同控訴人が右売買を知り、本件土地の賃借人たる同控訴人を差し置いて被控訴人が本件土地を買い受けたことに不満を表明したこと、そこで、被控訴人は、訴外池辺安夫、控訴人安雄ないしその代理をする同控訴人の二男訴外田川幸雄および控訴人明と話合をした結果、右売買は合意解除し、あらためて控訴人安雄が訴外池辺安夫から本件土地を買い受けるようにすることに決めたこと、ところが同訴外人が売値六六〇〇円、控訴人安雄側が買値四八〇〇円を主張し、双方とも譲らなかつたため、被控訴人が門拡張工事に必要な前記一、二坪の部分を使用させてもらえれば、右の差額を負担してもよい旨を申し出たこと、しかしながら、間もなく控訴人安雄が被控訴人の申出を拒絶し、本件土地を買わないと表明するに至つたので、被控訴人は、同年二月二六日再び訴外池辺安夫と先の売買契約を復活することにし、坪当り更地価格の一万一〇〇〇円で計算した代金額(本件土地は三六坪であるから、三九万六〇〇〇円となること計算上明らかである。)から先に昭和三四年三月頃同訴外人に貸与してあつた三〇万円を控除した金員を同訴外人に支払つたこと、被控訴人が更地価格で買い受けたのは右訴外人が貸金債務三〇万円の弁済資金に窮した結果であり同人に対する恩恵的措置であつたこと、被控訴人は、昭和三五年三月二日、本件土地所有権移転登記を経由し、その翌日頃、控訴人安雄に本件土地を買い受けたことを告げたうえ、懸案の一、二坪の部分を使用させることを求め承諾を得たこと、そして、同所に植栽されていた高さ一間程の樹本数本を控訴人安雄の指図する場所に移植し、同控訴人からその引渡を受け、門拡張工事をすることができたこと、本件土地取得当時被控訴人は本件土地をみずから使用してこれに建物を建築する等具体的計画はしていなかつたこと、ところで、控訴人安雄は、右の頃、高石町新三四七番地に土地を求めており、同所に住居を建築して転居する心算であつたけれども、これと同時に本件土地を賃貸人に返還するつもりはなく、訴外池辺安夫ないし被控訴人に対し本件土地を明け渡すことを約したこともなかつたこと、そして本訴提起後間もない同年八月頃、本件家屋(甲)を退去するのと同時に住宅に困つていた控訴人一雄を同家屋に居住させたこと、次いで本件家屋(乙)は、控訴人明とその妻子が退去した後、右控訴人の父である引受参加人を居住させていることが認められ、原審ならびに当審証人池辺安夫の証言、当審における控訴人田川安雄、原審ならびに当審における被控訴人各本人尋問の結果中、以上の認定に反する部分は措信し難く、ほかに、これをくつがえすに足りる証拠はない。

以上の事実を考えあわせると、被控訴人は、本件土地中、かねがね被控訴人が必要とした門の拡張工事に必要な部分を、すでに控訴人安雄から承諾を得て使用し同工事も完了しており、本件土地に関し被控訴人はまず当面の目的を満足していたものである。しかも、本件土地は貸金の代物弁済として取得したものであり、回収困難な資金が土地資本に転化したといつても過言でなく、もつぱら地代利潤を生ずべき形態で土地資本を利用して所有権を行使するべく、本件土地の賃貸借を存続させてもそれほど不利益にもならないで、収支償うであろう事情が充分に窺われるのである。しかも、他方被控訴人は、本件土地につき控訴人安雄が既存の地上建物所有のための賃借権を有することを熟知(害意)していたものである。このような観点からすれば、被控訴人をして登記の欠缺を主張する「正当の利益」を有する者と解するのは相当でないと考えられる。したがつて、控訴人安雄は、「正当の利益」を有しない被控訴人に対し対抗要件なくして本件土地賃借権を対抗できるというべきであるから、抗弁(一)は理由があるとしなければならない。

七、以上の次第であるので、被控訴人の本訴請求は、当審における拡張部分(控訴人明および引受参加人に対する本件家屋(乙)収去請求部分)を含めて、すべて棄却すべきであり、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条により原判決を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山内敏彦 平田孝 小田健司)

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